プロローグ

 僕は沖縄本部半島で、北海道狩勝峠の猛吹雪のニュースが流れるラジオに耳を傾けていた。沖縄では、桜の季節は風と共に去り、海水浴を楽しむ人もあるというのに・・・。

日本は何と広いことか!
この沖縄の人たちに、北海道の厳寒の冬を語っても、きっと実感が湧かないだろう。この地に住む人は、一生涯、北海道で生きる人たちとは、袖触れ合うこともなく死んで行くのだ。またその逆も然り、などと勝手に思い込んでみる。
人口が一億人だろうがが、二億人だろうが、殆どの人間は、互いに邂逅を遂げずして、自分の生まれた場所に骨を埋めるのだろう。
それに比べると僕は何と沢山の人と出会い、話をしてきたのだろうか。昭和四十六年の五月、耕運機「北帰行」で旅立ってから三年あまりの間、旅先ごとに忘れがたき人々がいる。北海道に、東北に、信州に・・・、僕が行けば温かく迎えてくれる人たちがいる、気軽に泊めてくれる人が全国に何十人も出来たのだ!
旅とは何かと問われたら、僕はこう答える。
「人とのやさしいふれあい」
それこそが旅なのだ。
昭和四十九年三月、 伊江島に沈みゆく、真っ赤な夕日を眺めながら、僕はそんなことを考えた。